交通事故の過失割合はどう決められるのか?―修正要素・適正な評価を受けるためのポイント

代表弁護士 河合 利弘 (かわい としひろ)
所属 / 鹿児島県弁護士会 (登録番号42212)
保有資格 / 弁護士

交通事故の示談金は「過失割合」により増減します。被害者の過失割合は刑事記録をベースに判断することができますが、実状よりも加害者の過失割合を減らす(あるいは被害者の過失割合を増やす)働きかけが行われることも稀ではありません。

過失割合がどのように決定されるのか、加害者との示談交渉に向けた基礎知識を紹介します。

交通事故の過失割合とは

交通事故の過失割合とは、事故発生の人的原因の全体を100%と評価し、事故当事者それぞれの不注意の度合いに応じて割合を振り分けるものです。過失割合は慰謝料のみならず、治療費・休業補償など(消極損害)にも適用されます。

そのため、被害者の過失割合が0%でない限り、損害回復のために自己負担が生じることとなります。

過失割合はどう決められるのか

過失割合は損害賠償が発生するトラブルに共通する考え方で、本来は訴訟時に裁判所が決定するものです。実際の運用では、捜査機関作成の実況見分調書に基づき、当事者の話し合い(示談交渉・ADR・調停)によって取り決められています。

被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

【引用】民法第722条2項(過失割合)

実務では「裁判所基準」が用いられる

過失割合の決定時の問題は、事故当事者の一方の都合で不当な割合が決定されてしまいかねないリスクです。

そこで、示談交渉サービスを行う保険会社・交通事故を受任する弁護士は、判例に基づく事故類型別の基準(裁判所基準)が用いています。

【過失割合】裁判所基準が掲載されている書籍

・『民事交通訴訟における過失相殺等の認定基準』

・『民事交通事故 訴訟損害賠償額算定基準』(“赤い本”)

・『交通事故損害額算定基準』(“青い本”)

加害者から書籍内容とは乖離した過失割合が提示された場合、不当に評価が行われている可能性があります。時間とケガの状態が許す限り、参照してみると良いでしょう。

過失割合の例

前述の書籍に基づき、過失割合の具体例を「車両同士の交差点上の事故」「歩行者と車両の事故」に分けて一覧にまとめたのが以下表です。

いずれも信号機設置有無・信号無視の状況は争点化しやすく、納得できない過失割合が決定される要因となるものです。


【車両同士の事故】交差点での出会い頭事故の過失割合

信号機 道路の状況 車両の状況 過失割合
あり 青信号車:青信号車 0:100
青信号車:黄信号車 20:80
赤信号車:赤信号車 50:50
なし 同幅員の道路 どちらも減速せず 40:60
どちらも減速 40:60
左方車減速せず:右方車減速 60:40
左方車減速:右方車減速せず 20:80
一方が明らかに広い道路 広路車:狭路車※ 30:70
優先道路 優先車:劣後車 10:90
一方に一時停止標識有り 一停規制車※ 20:80
一方通行違反あり 無違反車:違反車 20:80

【歩行者と車両の事故】横断歩道で起きた事故の過失割合

信号機 横断歩道の直近 過失割合
(四輪車:歩行者)
あり 直進車が横断歩道を通過した後 車両の信号 歩行者の信号
50:50
50:15
75:25
30:70
50:50
直進車が横断歩道通過する直前の衝突 90:10
80:20
70:30
30:70
50:50
右左折車が横断歩道を通過した後の衝突 90:10
70:30
なし 横断歩道上 100:0
歩行者側の回避は容易だが、

車両側の歩行者の発見は困難

85:15
横断歩道付近 70:30

※以上の表以外にも「交差点で対向車同士が衝突した場合」「駐車場での事故」など事故状況に応じて細かく基準が定められています。個別の事故例については、弁護士に相談してください。

過失割合の修正要素とは

過失割合はある程度類型的に判断できますが、個別の事故例を見ると「被害者の年齢や健康状態」「相手方の危険運転」などの無視できない要素も存在します。

これら「過失割合の修正要素」があれば、事故当事者の一方に5%〜20%の減算または増算が認められるべきでしょう。実際にどのような修正要素があるのか、以下で紹介します。

車両同士の事故

車両同士(四輪車同士あるいは四輪車と二輪車)の事故では、著しい過失・重過失を含めて下記のような要素が加味されます。


【表】過失割合の修正要素(車両同士の事故)

修正要素 説明
著しい過失 前方不注視が著しい場合・酒気帯び運転・著しいハンドルまたはブレーキの操作ミス・時速15キロ以上30キロ未満の速度違反
車両の重過失 無免許運転・酒酔い運転・居眠り運転・嫌がらせ運転(あおり運転など)・時速30キロ以上の速度違反
直近右折 直進車の至近距離での右折

(対向直進車が通常速度で停止線を越えて交差点に入ろうとしているときの右折開始)

早回り右折 「交差点の中心の直近内側を進行する右折方法」ではないもの(道路交通法34条第2項)
大回り右折 「右折しようとする場合にはあらかじめできる限り道路の中央によらなければならない」に違反するもの(道路交通法34条2項)
既右折 右折車が右折完了し対向直進車線に入っている状態で、直進車がスピードを落とさなかった場合
道交法50条違反の直進 交通整理の行なわれている交差点など、進入が禁止される状況での交差点へ進行(道路標識等による停止線が設けられているときは、停止線を越えた場合)
徐行義務違反 一方の車両に徐行義務があるのに徐行しなかった場合(歩行者用道路徐行違反・徐行場所違反・安全地帯徐行違反)
大型車 大型車は運転手の注意義務が高い

歩行者と車両の事故

歩行者と車両(四輪車もしくは二輪車)の事故でも、以下のように細かく減算要素決められています。

歩行者の減算要素

歩行者の減額要素を大別すると「被害者の年齢と障碍」「事故現場と状況」「車両側の加算要素」に分かれます。


【表】過失割合の修正要素(車両同士の事故)

修正要素 説明
幼児・児童・老人 l  「幼児」=6歳未満

l  「児童」=6歳以上13歳未満

l  「老人」=概ね65歳以上

身体障碍者 l  身体障害者用の車いすを通行させている者

l  杖を携え、または盲導犬を連れている目が見えない者

l  杖を携え、耳が聞こえない者

l  肢体不自由・視覚障害・聴覚障害・平衡機能障害のある者で杖を携えている者(道路の通行に著しい支障がある程度)

住宅街・商店街での事故 車両に歩行者の行動に注意する義務があるため
集団横断(通行) 集団登校など複数人が固まって横断していた場合(車両からの発見が容易であるため)
車両の著しい過失 前方不注視が著しい場合・酒気帯び運転・著しいハンドルまたはブレーキの操作ミス・時速15キロ以上30キロ未満の速度違反
車両の重過失 無免許運転・酒酔い運転・居眠り運転・嫌がらせ運転(あおり運転など)・時速30キロ以上の速度違反
歩車道の区別なし 歩車道の区別のない道路(車両が危険性を認識できるため)

歩行者の加算要素

反対に「歩行者の注意不足」が指摘できるケースでは、過失割合が加算されます。

修正要素 説明
道路への飛び出し 横断時に注意せず急に飛び出した場合
夜間 日没から日の出までに事故が発生した場合

(夜間はライト点灯により車両発見が容易であるため)

幹線道路 車幅14m以上の車両が多い幹線道路(国道や県道など)
直前直後横断 車両の直前または直後の横断
横断禁止場所 道路交通法による横断禁止場所の横断
佇立・後退・ふらつき 道路上で立ち止まる(佇立)・引き返す(後退)・ふらふら歩く

好意同乗・素因減額の問題が生じることもある

事故類型別の過失割合とその修正要素以外にも「好意同乗」「素因減額」と呼ばれる要素が示談金に影響します。

好意同乗とは

車両の事故において、運転手(運行供与者)と同乗者とのあいだで損害賠償金を分担する考え方です。

運転手との人的関係性に基づいて同乗して事故に遭った場合「そもそも同乗に至ったのは誰の意思なのか」「同乗者側に事故の原因があるのか(運転中に話しかける等))といった要素に合わせ、割合で示談金の負担を取り決めます。

素因減額とは

被害者が身体的・精神的に持つ特徴に応じ、最大20%程度の示談金減額を行う考え方です。減額要素を大別すると、体質的素因(既往疾患や著しい老化現象)・真因的素因(うつ病や治療意欲の欠如)の2つが挙げられます。

過失割合を適正に評価するためのポイント

過失割合の根拠となるのは、実況見分・目撃者証言・事故が記録された映像等の「客観的資料」です。問題は、そもそも客観的資料に乏しいケース(人通りの少ない場所での事故)が少なからずある点でしょう。

また、時間が経つほど資料が散逸してしまうことも否めません。以上のことを考慮すると、事故直後から専門性の高い弁護士のフォローを得ると安心できます。

事故直後に自分で出来ること

事故当事者が過失の適正評価のために出来ることとして、以下のような行動が挙げられます。

特に重要なのは、出来るかぎり実況見分に立ち会うことです。


【過失割合の適正評価のためにできること】

  • 実況見分への立ち会い
  • 現場や車両損傷部分の撮影
  • 事故状況のメモ

実況見分に立ち会うかどうかは自由に決められますが、最も有力な立証資料が作成される点に留意しなければなりません。重傷を負いよりどうしても立ち合いができない場合は、弁護士に代理で立ち合ってもらうよう依頼することが出来ます。

弁護士に相談する

実況見分に先だって弁護士と情報共有することが出来れば、事故状況の立証手段を含めて検討することが出来ます。

示談を開始する前に刑事記録を裁判所基準と合致させて判断し、治療や修理費見積もりと合わせて示談金の見通しを立てられるのも安心です。

過失割合に納得できないときはご相談ください

交通事故の過失割合を決める際は、刑事記録等の客観的資料を判例基準に当てはめて判断します。当事者同士の話し合いでは実状にそぐわない割合で決定されてしまうことが多く、有識者によるフォローは欠かせません。

「過失割合に納得できない」「ドライブレコーダー未搭載のまま人通りのない道で事故に遭った」等、どんな状況でも当事務所にご相談ください。ご主張の立証手段を含め、過失割合を是正できるか徹底的に検討します。

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